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2008.03.18 (Tue)

いっそその銀色の閃きがこの目を抉ってしまえばいい

なんだか唐突に書きたくなった元隆というか、投手としての榛名元希を敬愛している阿部の話。
でも出てるのは阿部きょうだいだけです。捏造の従妹もいます。
なんかみんな仲良しで、長兄をぐだぐだに甘やかしたいだけです。
みんなお兄ちゃんが大好き!

(ちなみに阿部従妹とは、養子縁組で阿部の伯父夫婦へと養女に出された阿部(長兄)の二卵性双生児の妹です。ついでとばかりに榛名の幼馴染で、阿部(長兄)の最初の(バッテリーとしての)旦那)



 あなたが余りに眩しくて

 直視することのできないわたしは

 あなたが好きだと

 言ってくれた

 この目を

 隠すことにしました。

【More・・・】

 シャキン、シャキンと銀色が閃く。
 はらはらと真っ黒な髪が、広げた新聞紙の上に落ちていく。
 簡素なベランダ。古い椅子と首に巻きつけた古いバスタオル。銀色の鋏だけが、出産祝いだとかの貰い物の高級品。
 声高にハシャいでいるのは、弟と妹。自分と同じに痩せぎすの弟の細い脚がぶらぶらと揺れている。鋏を握っているのは妹。
 短く揃えられていく黒い髪。日に焼けた額が露になる。生え際ギリギリで切られる髪は若干ざんばらだが、弟はそんなことを気にしない。後ろ髪に関しては慎重に切っていたので、素人にしては充分に揃っているし。
 夏の午後。日差しはきつい。部屋の中、影になったところから二人を眺める。
 同い年の妹は、自分と同じく今年高校受験だというのにのんびりしたものだ。いや。自分も人のことは言えないくらいにはのんびりしているが。
 数式の並んだ教本。世の中にはもっと楽な解法だって存在するのに、回りくどい手段しか載っていない。使う記号の数が限られている。知っている公式も圧倒的に少ない。しかも受験以外にこれが一体何の役に立つかは甚だしく謎だ。
 社会に出て使うもんじゃない、と。言ったのは確かひとつ上の先輩。
 成程その通りだとも思う。
 しかしまあ人生なんて意味のない連なりだとも思う。
 閃く銀色。夏の日差し。日に焼けた弟が弾けるように笑う。その笑い方は、あの先輩を思い出させる。妙にデカイ声とかが特に。

「隆くん!」

 ひとつ年下の弟は、兄という形容を付けずに名前で呼ぶ。妹も同じく。
 ベランダに目を向ける。妹弟は笑っている。夏の日差しの中で。
 数年前、妹は泣きながらマウンドを降りた。リトルの親善試合だった。夏の暑い日。涙は流していなかった。けれど泣いていた。妹はその日以来、付き合いで見ていた高校野球を見なくなった。見ているだけは厭だと膝を抱えた。
 一年前、俺はマウンドを降りるあの人の背中を見ているだけだった。好きだった夏が嫌いになった。ジンジンと頭の芯が茹る。待ってくださいと呟いた声は届いていなかった。
 夏の日差しは、目に痛い。
 肩を震わせていた妹と、肩を庇うようにダッグアウトに歩を進める背中。
 ふたりとも大好きだった。
 マウンドに立つ姿はいつだって凛としていた。その分、マウンドから離れるときはいつだって悲しそうだった。
 目映い夏の日差し。その中でいつだって笑っていた投手。いつでも自信過剰な笑みを浮かべていた。

「タカ」

 妹が名前を呼ぶ。ほわりと柔らかく笑う。その笑い方もあの先輩を思い出す。畜生、幼馴染とは厄介なものだ。

「タカは切らないの?」

 真っ直ぐに俺を見る目が四つ。
 どれも俺の目には痛い。違う。夏の日差しだ。直視できないなんて訳じゃない。逃げてなんかいない。

「隆くんのは俺が切ってあげるよ!」

 弟の声。

「だめ。タカのもあたしが切るの」

 妹の声。
 
「だめ、伸ばしてるの」

 口調を真似て返す。
 ごめんなさい。嘘を吐きました。本当は真っ直ぐな妹弟の目が見れない。逃げている。野球からもあの人からも、投手って生き物からも。
 夏の日差しが眩しい。四つの目も眩しい。
 妹がおもむろに近寄ってきて眼前で銀色を閃かせる。ジャキンと大きな音がしたが、鋏は何も咬まずに空振った。

「おっ、ま…ぇ! 危ねえ……」
「刃物の扱いはエキスパートだよ。それに、あたしがタカに怪我させるわけないじゃん」
「いやいやいや。充分ギリギリだったぞ」

 至近距離に妹の顔。黒い垂れ目はきょうだい全員共通。

「大丈夫だよー。陸ちゃんは、隆くんのこと大事にしてるもん」

 ねーと声を合わせて妹弟が又笑う。きらきらしていて、胸の奥が苦しい。
 この蟠りの解法なんて、屹度何処にもない。これは一生付き合っていかなきゃならない。自分が望んで引き受けた痛みだ。
 一時凌ぎに目を逸らしても、屹度向き合うときが来る。

「そんな大事なタカの御意見だから、何も聞かずにおいてあげる」
「まあ聞かなくても分かるしねー」

 妹の白い手が半端に伸びた前髪に触れる。鋏はもう片側の手に閉じた状態で握られている。そのまま突き立てられたら痛いじゃすまないだろう。
 細い指が力任せに髪を引っ張る。非難の声を上げようとした矢先、瞼に唇が寄せられる。
 そして少し離れて妹は笑う。いつの間にか部屋の中に入ってきた弟も似たような顔で笑う。
 何だかんだで全てを許容するような笑い方だ。否が応にもあの人を思い出す。
 傍若無人に笑うばかりだったくせに、極偶にひどく優しく笑う。仕方ないなと言った風情で、小さな不満を珍しく飲み込んだ笑い方。
 実際に不満を飲み込んでたのは自分の方だけれど、そんな気まぐれな優しさに類似したたぶん本質は全く違うものが好きだった。

「タカのおめめがもっかい、色んなもの見れますように」

 あなたが好きだと言ってくれた目。
 それを隠す。
 髪を伸ばす。
 あなたが見れないから。
 眩しくて目が痛いから。

 ……この嘘もお願いだから騙されてくれるといい。










(あなたのいない世界を直視する勇気なんて俺にはなかったんだ。)
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